光創起イノベーション研究拠点
光創起拠点TOPNews & Topics第16回iPERCセミナーを開催しました
News & Topics

第16回iPERCセミナーを開催しました

2023/10/17

 2023年8月30日、静岡大学光創起イノベーション研究拠点棟にて「Warren先生のJournal Club」が開催されました。Journal Clubは、Biomedicalの専門家で浜松ホトニクス株式会社の米国法人に所属されているWarren先生のご指導をいただきながら、静岡大学と浜松医科大学の大学生・大学院生が英語の学術論文について発表し、工学・情報学・医学の融合領域における課題や可能性について議論を深める会となっています。Warren先生はコロナ禍以来3年ぶりに静岡大学浜松キャンパスに来訪され、会場とzoomでのハイブリッド開催となりました。

 今回の論文には、RSP Systems社のAnders Porsらが発表した「Accurate Post-Calibration Predictions for Noninvasive Glucose Measurements in People Using Confocal Raman Spectroscopy, ACS Sensors, 2023, 8, 1272-1279」が選ばれました。彼らが開発した「非侵襲グルコースセンサー」における、糖尿病血糖検査への実用化を実証する論文でした。

 

 糖尿病は、血糖値やヘモグロビンA1c *1(*は文末の用語解説番号)の値が適正値よりも高くなり、その状態が慢性的に続く病気です。血液中のブドウ糖を細胞へ届けるインスリンの分泌不足もしくは異常が生じることで発症します。日本WHO協会によれば、糖尿病の患者は34年間で1億800万人(1980年)から4億2200万人(2014年)に増加しており、有病率は低・中所得国で急激に上昇しているとされています。糖尿病は失明・腎不全・心臓発作・脳卒中・下肢切断の大きな原因となっており、2019年ではその死亡者数は200万人と推定されています[1]([ ]は文末の参考資料番号)。

 糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病の2種類のタイプが存在します。1型糖尿病は自己免疫によってβ細胞 *2が破壊されることで引き起こされるとされています。一方で、2型糖尿病ではβ細胞からインスリンが分泌されているものの、生活習慣の乱れなどによりインスリンの作用不足が原因により発病するとされています。治療方法は、食事・運動療法に加えて血糖コントロールのための内服薬の処方、インスリン治療など多岐に渡ります。どちらのタイプの糖尿病においても、適切な治療を施すためには症状の指標となる血糖モニタリングは非常に重要です。

 血糖モニタリングには次のようなメリットが存在します。

(1)日常生活と血糖値の相関関係が、リアルタイムでわかる

(2)きめ細かい適切なコントロールができる

(3)効果的な自己注射療法ができる

(4)急性、慢性の合併症の進展を防止することができる

(5)通院回数や入院を減らすことができる

 

具体的な血糖モニタリングの方法として、指先に針を刺して採取した血液を用いて、含まれるグルコースを直接測定する血糖自己測定(SMBG, Self-monitoring of blood glucose)や、微小な針(フィラメント)の付いたセンサーを体に取り付けて留置し測定する持続血糖測定(CGM, Continuous Glucose Monitoring)などがあります。いずれの方法も、患者が自身で測定を行いますが、軽微とはいえ侵襲を伴います。持続血糖測定では、センサー専用のスキャナーで読み取った情報をスマートフォンのアプリケーションで解析することで測定値の閲覧・管理を行うことができ、一定期間であれば持続的に血糖値の推定を行うことが可能です。血糖自己測定と異なり、測定のたびに針を刺して採血する必要がないため患者の痛みを減らすことができます。ただし、持続血糖測定では皮膚直下の体組織に刺入されたフィラメントを通して組織液のグルコースを測定し、その値から血糖値を推定するため、直接的に血糖値を測定する方法ではありません。いずれにしても、血糖モニタリングは糖尿病患者にとって有効である一方、現在実用化されている方法において、患者は痛みやコスト、見た目などの様々な悩みを抱えているのが現状です。これらの課題を解決する方法の1つとして、今回の論文で紹介された非侵襲グルコースセンサーは有効であるといえます。

 非侵襲グルコースセンサーでは、母指球筋 *3を測定することで非侵襲での血糖モニタリングすることが可能です。母子球筋を測定するメリットとして、

・皮膚が薄く一定である

・血液量が多い

・動きが制限されているため安定した測定が可能である

などが挙げられます。

 測定方法にはラマン分光法を採用しています。ラマン分光法とは、物質に光を照射し、光と物質の相互作用から生じたラマン散乱光を用いることで、物質の評価を行う分光法です。光が物質に照射されると、吸収・透過・反射・散乱といった様々な現象が起こります。ラマン散乱光は散乱光の一部です。散乱光の大部分は入射光と同じ波長のレイリー散乱ですが、ごくわずかに波長の異なる光が含まれ、それをラマン散乱光と呼びます。ラマン散乱光は、入射光より波長が長いストークス散乱光と、入射光より波長が短いアンチストークス散乱光に分類されます(図1(左))。

 得られたラマンスペクトルのピーク強度や波数情報、ピークシフトなどを解析することで、分極率や配向、組成、歪みや応力など、様々な情報を所得することが可能です(図1(右))。

ラマン分光法をグルコース測定に用いるメリットとして、

・非侵襲での測定が可能

・水の干渉が少ないため生体分子や溶液の評価に適切である

・ヘモグロビンの吸収が少ない

などが挙げられます。一方で、ラマン散乱光のシグナルは非常に弱いため、検出が難しいといったデメリットが挙げられます。

 

1-left1-right

 図1. (左)ラマン分光法の概要図[2] (右)ラマンスペクトルから得られる情報[2]

 

図2に、非侵襲グルコースセンサーの概略図を示します。

Fig.2

 図2. 非侵襲グルコースセンサーの概要図

 

 図2に示すように、光学ハードウェアは共焦点工学系 *4として設計されています。波長830 nmのダイオードレーザー(Diode Laser) *5は、コリメーションレンズ(Collimation lens)を通過することで平行光に収差 *6補正されます。その後クリーンアップフィルター(Clean-up filter)を通してノイズとなる自然光が除去された後、ミラー(Mirror)、ダイクロイックミラー(Dichroic mirror) *7、f *8/0.55レンズ(lens)を通過して母指球筋に照射されます。照射された光は表皮と真皮 *9の間に存在する成分と相互作用し、ラマン散乱光が発生します。発生したラマン散乱光はf/0.55レンズ、ダイクロイックミラー、ロングパスフィルター(Long-pass filter) *10、f/1.3レンズを通過した後、約10 cm-1の周波数分解能をもつ分光器(Spectrometer)によって300-1615 cm-1の周波数範囲で測定されました。

 実際の測定では、単体のグルコースの測定とは状況が異なるため、様々な条件を考慮する必要があります。その1つが皮膚の色です。皮膚の色の影響を調べるため、「Fitzpatrick scale *11」で分類された5つのタイプの皮膚の色に対して、それぞれのスペクトルが測定されました。結果、皮膚の色によってスペクトルに大きな差異は確認されませんでした。

 また、センサーは実用化の面から数日から数週間にわたり精度の安定性が担保される必要があります。校正後15日間の臨床試験結果から、平均グルコース測定値は0.2 mmol/L以内の基準値に収まっており、二乗平均平方根誤差(RMSE) *12は15日間を通して1.68から1.84 mmol/Lとわずかに増加しただけで、測定精度は約9.5%低下に収まることが確認されました。

 臨床試験には、1型および2型の糖尿病患者計160人が被験者として選ばれました。評価には、コンセンサスエラーグリッドが使用されました。コンセンサスエラーグリッドは、糖尿病患者の臨床評価において血糖値モニタリングの結果を評価し、患者の安全性と効果的な治療を確保するためのツールの一つです。以下のようにA~Eの5段階に分類されています。

A: 血糖値の誤差が小さく、患者の治療にほとんど影響を与えない

B: 誤差はあるが、治療にわずかな影響しか与えない

C: 誤差があり、治療に影響を与える可能性がある

D: 誤差が治療に悪影響を及ぼす可能性がある

E: 誤差が非常に大きく、患者の安全性に危険をもたらす可能性がある 

 

Fig.3.jpg

 図3. (a)1型糖尿病および(b)2型糖尿病患者におけるコンセンサスエラーグリッド

 

 図3は1型および2型糖尿病の被験者におけるコンセンサスエラーグリッドです。図より、1型糖尿病の患者においてはMAED *12が19.9%、RMSEが96.5%であるのに対し、2型糖尿病の患者においてはMAEDが14.3%、RMSEが99.8%であることが確認できます。ISO 15197 *13によれば、RMSEの結果が99%以上必要であることから、今回の1型糖尿病患者に対する結果は不十分であることが分かります。

 RMSEおよびMAEDはグルコース濃度の範囲に強く影響されることが確認される一方で、年齢・性別・および肌の色では指標に大きな変化がないことが確認されました。

 

 ラマンスペクトルの直接的な観察は、温度や皮膚厚さの不均一性、体の動きなどの外的要因が原因となるため、非常に困難です。これを解決するため、被験者毎のキャリブレーションモデルとしてPLS(Partial Least Square)回帰 *14が選ばれました。説明変数には前処理されたラマンスペクトルが、目的変数にはグルコース値が使用されました。

 PLSモデルの評価には、一般的に交差検証が使用されます。交差検証とは、機械学習や統計学においてデータを分割し、その一部(学習データ)を解析して得られたモデルの性能を、残ったテストデータを用いて評価する検証方法です。具体的な方法を、今回用いられたk-分割交差検証を取り上げて説明します。

 まず、訓練用のデータをk個(今回はk=20)に分割して、1つをテストデータ、残りの19個を学習データとして使用します。学習データでモデルを構築した後、テストデータで予測性能を推定します。これを分割されたデータすべてで繰り返すため、学習済みモデルも20個作成されます。これらのモデルを平均化したモデルを最終的な予測モデルとします。結果から、被験者間のスペクトルのばらつきが顕著であるにもかかわらず、PLSアルゴリズムは一貫した結果を示しました。ラマン分光法とPLS回帰の組み合わせが、実用的な評価が可能であることを明確に示しました。

 

 現在使用されている酵素電極法 *15では、グルコースの値は測定された電流とグルコース濃度の線形関係から求められてきました。この手法は、外乱の影響を受けやすいという課題がありました。一方で、今回のような統計的手法は外乱を含む多数の変数からグルコース値を決定することができます。電気化学法は十分な精度がありますが、統計的手法の方が非侵襲的な測定であること、穿刺検査の必要性をなくすことができるという点で大きな利点が存在します。統計的手法を今後一般的な手法としていくためには、より多くのデータ収集と、より一般的で頑健なモデルの構築が必要になると考えられます。

 

 著者らは、結果として、ラマン分光法とPLS回帰を組み合わせることで、糖尿病患者が家庭で使用できる非侵襲グルコースモニタリングデバイスの開発に成功しました。年齢・性別・肌の色に関係なく、適切な評価が可能であることが証明されました。最も重要な点は、校正後15日間の検証機関で十分な測定精度が担保されるということです。一方で、デバイスのさらなる小型化・精度の向上、校正手順の削減など様々な課題が残っています。これらの課題を解決しつつ、新しい糖尿病管理方法が今後広がっていくでしょう。

 

質疑応答集

 

質問:測定時間はどの程度必要でしょうか?

回答:1回の測定に約1分から5分ほど必要だと思われます。今回は手の測定なので十分な安定性を得られており少ない測定時間で済みますが、測定場所が頭や足の場合、被験者が動いてしまうので、より多くの測定時間が必要になると推測されます。

 

質問:”confocal”という以上は共焦点だと思われますが、光学コンポーネントの図には共焦点に必要なピンホールがありません。どこにピンホールが設置してあるのでしょうか?

回答:おそらく分光器の手前に設置されていると考えられます。(論文には分光器の入射スリット上のレンズがピンホールとしても機能すると記述がありました。[本報告文執筆者コメント])

 

質問:測定時には皮膚が押し付けられるため、その圧力によって血圧が変化し測定に影響を与えるのではないでしょうか?

回答:先行研究によって、影響は小さいと考えられます。

 

質問:測定において、血中のグルコース濃度はどの範囲まで有効でしょうか?

回答:表1より、低血糖の場合(0-3.9 mmol/L)はMARDが58.8%、高血糖の場合(10.1-30.0 mmol/L)はMARDが13.9%でした。よって、低血糖のグルコース濃度範囲ではエラーが大きく適切に評価できない可能性が高いです。

 

質問:統計的手法は酵素電極法よりエラーが小さいですか?

回答:血液を採取し測定する方法(酵素電極法)が一番確実であると考えられます。この血液は1滴でも問題ないとされています。ただし、体内の血液は常に一定であることはありません。そのため、化学的方法が絶対に正しいと断定することは難しいです。

 

Q:観測されたラマンスペクトルにはグルコース以外のスペクトルが含まれているはずですが、ここまで正確にグルコースの指紋スペクトルが確認できるのでしょうか?

回答:おそらく、評価には回帰モデルが強く依存すると考えられます。ほかの研究では別の回帰モデルも試されていますが、今回の回帰モデルは非常に優れた結果を示しました。一方で、このような統計的手法は未知の部分が多く確実に信頼できる手法であるかどうか証明することは難しいです。今回のように、大規模な医療データを利用して新たな治療法や疾患のメカニズムを解明し、効果的な医療戦略を開発することは、「Holy Grail of Medicine(医学の聖杯)」と呼ばれており、医療分野において達成すべき最も難解で重要な目標や課題です。

 

質問:今回のデバイスは日常的に使用するうえでは十分な精度であると思いますが、医療現場においてはどうでしょうか?

回答:今回示したISO15197は、あくまでグルコースのモニタリングの評価基準であり、最低限の評価基準です。そのため、日常生活のモニタリングにおいては十分な精度であると考えられますが、医療現場においてはより正確な精度が必要になると推測されます。

 

本報告書執筆者の感想

 今回の論文はラマンスペクトル(光学)で得られたデータを解析し(情報学)、血糖検査を行う(医学)という点で、医工学を学ぶことができる非常に適した論文でした。世界的に増加している糖尿病患者のための新たな検査手法の提案、さらに医療分野で注目されている予防医学・個別化医療への貢献という点で、このデバイスの可能性は計り知れないと思います。筆者自身が工学系の学生であるため、今回の論文のような医療の視点は新鮮でした。特に、浜松医科大学の学生が重要視していた「患者目線」を意識した評価は、医工学プログラムにおいて発見できる特別な視点でした。近年、体内に埋め込むような医薬品デバイスの開発も活発に行われており、今回提案されたような非侵襲の診断機器と連携することで、患者に負担のない医療を提供できると期待されます。そのためにも、今回のJournal Clubのような工学・情報学・医学の融合領域における議論の場は、今後ますます必要不可欠になるでしょう。

 

発表者

・浜松医科大学 医学部医学科 4年 清水 彩加 さん

・浜松医科大学 医学部医学科 3年 森谷 優人 さん

・静岡大学 自然科学系教育部 光・ナノ物質機能専攻 博士2年 田畑  諒 さん

・静岡大学 自然科学系教育部 光・ナノ物質機能専攻 博士2年 小野 公輔 さん

 

用語解説

*1: ヘモグロビンA1c

 ヘモグロビンとは、赤血球内に存在するタンパク質の一種で、全身の細胞に酸素を送る働きを担っています。血液中のブドウ糖がヘモグロビンと結合すると、糖化ヘモグロビンになります。血糖値が高いほどヘモグロビンに結合するブドウ糖の量は多くなり、いったん糖化したヘモグロビンは、赤血球の寿命(120日)が尽きるまで元には戻りません。ヘモグロビンA1cとは糖化ヘモグロビンがヘモグロビン全体のうちどの程度の割合で存在しているかをパーセント(%)で示したものです。ヘモグロビンA1cは過去1~2か月前の血糖値を反映するので、当日の食事や運動などの短期間の血糖値の影響を受けません。判定の目安として、ヘモグロビンA1c値が5.6%未満であれば正常型とされ、6.5%以上になれば糖尿病型となります。糖尿病は症状の有無、血糖値、ヘモグロビンA1cの値を総合的にみて判断するため、ヘモグロビンA1cはあくまで診断の基準の1つとされています[3]。

 

*2: β細胞

 β細胞は、膵臓に存在するインスリンを分泌する膵内分泌細胞です。β細胞のほかに、グルカゴンを分泌するα細胞、ソフトスタチンを分泌するδ細胞、膵ポリペプチドを分泌するPP細胞などが挙げられます。

 

*3: 母指球筋

 手の親指の付け根のふくらみを構成する4つの筋肉(短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指転筋)の総称です。

 

*4: 共焦点光学系

 点光源から出力した光がレンズを透過してサンプル表面に焦点を結び、反射光が再度レンズを通過して検出器側で焦点を結んだ光がピンホールを通って受光される光学系です。サンプル表面と検出器側の両方に焦点を持つことから、共焦点と呼称されています。

 焦点からはずれた場所から発生した光はピンホールの前後で焦点を結ぶため、その大部分は遮光され検出器に光が届きません。このようにピンホールを利用することで、焦点面から発せられた光だけを検出器に導くことが可能です。

 

*5: Diode Laser (ダイオードレーザー)

 レーザーは、Light Amplification by Stimulated Emission Radiation(誘導放出による光の増幅)の頭文字をとったものです。ダイオードレーザーは、半導体レーザーとも呼称されています。その特徴は、

・小型である

・低電圧、定電流で駆動でき、容易に発信できる

・電力を直接光に変換しており、高い変換効率が得られる。

・半導体の組成を変えることで、様々な波長のレーザーを作成できる

などが挙げられます[4]。

 

*6: 収差

 光線が正しく一点に集まれずに不完全な像ができること。

 

*7: Dichroic mirror(ダイクロイックミラー)

 特定の波長領域の光を透過し、残りの波長領域の光を反射するミラーです。今回の光学系でいえば、照射されたレーザー光を透過し、ラマン散乱光を反射するようなダイクロイックミラーが使用されていると考えられます。

 

*8: f

 焦点距離(focal length)を示します。

 

*9: 表皮と真皮

 皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層から構成されています。表皮は皮膚の最表面の層で、角層・透明層・顆粒層・有棘層・基底層の5層に分かれています。表皮には神経や血管は通っていません。一方で、真皮は表皮の数倍から数十倍の厚さをもち、血管・神経・リンパ管が通っています。

 

*10: Long-pass filter (ロングパスフィルター)

 任意の波長よりも短波長側の光をカットし、長波長側の光を透過させるフィルター。

 

*11: Fitzpatrick scale(フィッツパトリック尺度)

 紫外線に暴露されたことによる感受性をもとに、ヒトの肌の色を6段階に分類した尺度です。スキンタイプⅠからⅥにかけて皮膚の色は濃くなっていきます。

 

*12: 二乗平均平方根誤差(RMSE)と平均絶対相対誤差(MARD)

 RMSEはroot mean squared errorの略で、回帰モデルの誤差を評価する指標の1つです。以下の式で計算されます。

12-1

 

nはデータ数、yiは観測値、12-2-2は予測値を示しています。

 MARDはmean absolute relative differenceの略で、こちらも誤差を評価する指標の1つです。以下の式で計算されます。 

12-2

 

*13: ISO15197

 ISOとは、国際規格を策定する民間団体であるInternational Organization for Standardization (国際標準化機構)の略です。国際的な取引を行うにあたり、各国で作られた製品が同じように使用できるよう一定の基準を設けることを目的に設立されました。ISO15197とは、「体外診断検査システム-糖尿病管理における自己測定のための血糖モニターシステムに対する要求事項-」で、血糖自己測定に関する規格です。血糖自己測定は患者さんが直接使用する特殊な医療機器として重要視されており、治療の指標となる血糖値を正しく測定するには一定の基準が必要であるという認識から、2003年に発行されました。しかし、FDA(米国食品医療品局)主催の血糖モニターに関する公聴会にてSMBGシステムのさらなる性能向上が要望されるなどの要求事項の厳格化が臨床現場から求められ、2013年に改訂されています。この改定に伴い、コンセンサスエラーグリッドによる評価が追加されました[5]。

 

*14: PLS回帰

 回帰分析とは、複数のデータの関連性を明らかにする統計手法の1つです。分析対象の成果である目的変数を予測するため、影響を与えると予測される説明変数の影響の程度を数値化し、それぞれの関係をモデル化します。

 最もシンプルな回帰分析が単回帰分析です。Y=AX+Bという線形のモデルのA, Bを求めることで目的変数Yの変動を予測することができます。このとき、説明変数Xは1成分のみですが、これが2成分以上存在する場合を、重回帰分析と呼びます。

 ただし、重回帰分析の際に注意すべき点が複数あります。その1つが多重共線性です。これは、説明変数間に強い関連性がある場合を指します。多重共線性がある場合、回帰式の精度が極端に悪化したり、回帰係数が異常な値を示すことがあります。

 PLS回帰は、この多重共線性の問題を回避する分析方法の1つです。PLS回帰では潜在変数と呼ばれる新たな変数を用います。まず、説明変数Xと目的変数Yの共分散が最大になるような重みの成分が決定されます。次に、その成分を利用して潜在変数を決定します。この潜在変数で説明できるデータを取り除いた残差データである説明変数X1および目的変数Y1に対してX1とY1の共分散が最大になるように再び潜在関数が決定されます。これを十分な精度が得られるまで繰り返します。[6]。

 

*15: 酵素電極法

 分析試料の中には、測定したい目的物質以外にも構造・性質の類似した化合物などが含まれる場合が多いです。そのため、直接目的物質を検出することは不可能であることがほとんどです。

 電極法では、電極に電位を印加し、物質を酸化あるいは還元させることによる電子の流れを電流として観測します。自己血糖測定装置では、ブドウ糖酸化酵素電極法が用いられることがほとんどです[7]。酵素電極法では、血中のブドウ糖はブドウ糖酸化を固定化したキャップ膜を透過する際に、その触媒作用によりグルコン酸と過酸化水素が生じます。過酸化酸素は電極表面で分解され、この時電極に電流が流れます。この電流を検出することで、ブドウ糖を測定します[ 8]。

 

参考資料

[1]糖尿病, 公益社団法人日本WHO協会, 2023年4月5日更新

 https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/diabetes/

[2]ラマン分光の原理, 株式会社堀場製作所, 2023年10月11日閲覧

 https://www.horiba.com/jpn/scientific/technologies/raman-imaging-and-spectroscopy/raman-spectroscopy/

[3]HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)ってなに?, 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 2021年10月21日更新

 https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ld/endocrinology/hba1c/

[4]半導体レーザ(半導体レーザー), ウシオ電機株式会社, 2023年10月11日閲覧

 https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/glossary_ha/ha_laser_diode.html

[5]ISO15197:2013について, アークレイ株式会社, 2023年10月11日閲覧

 https://www.arkray.co.jp/japanese/science/monoshiri/pdf/monoshiri_01.pdf

[6]高島有哉, 森林遺伝育種のデータ解析方法(実践編10) 主成分回帰(PCR)と部分最小二乗回帰, 森林遺伝育種第12巻, 2023

[7]血液から見える健康―第13回 血糖―糖尿病の検査, インクロム株式会社, 2023年10月11日閲覧

 https://www.medimag.jp/about.html

[8]小型電極式血糖測定機器「アントセンスⅢ」開発, 株式会社堀場製作所, 2004年5月11日更新

 https://www.horiba.com/jp/medical/news-events/news/article/iii-4912/

光創起イノベーション研究拠点棟 〈光創起研究棟〉

〒432-8011 静岡県浜松市中央区城北3丁目5-1 国立大学法人静岡大学浜松キャンパス内
TEL:053-478-3271 / FAX:053-478-3256