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第15回iPERCセミナーを開催しました

2023/02/14

2022年12月7日、HAMAMATSU VENTURES USAのRobert Virgil Warren先生によるJournal Clubがオンラインで開催されました。

このJournal Clubでは、浜松医科大学と静岡大学の学生が1つの学術論文を選び、役割分担してプレゼンテーション発表し、Warren先生、及び参加者と議論しました。発表者は浜松医科大学医学部医学科4年川畑 千尋さん、同じく浜松医科大学医学部医学科4年 小島 万由子さん、静岡大学大学院光医工学研究科博士課程1年 奥山 智弘さん、同じく静岡大学創造科学技術大学院博士課程3年 ARA IFATさんです。

今回は、カリフォルニア大学のCai Liらの「Dual-modality fluorescence lifetime imaging-optical coherence tomography intravascular catheter system with freeform catheter optics」[1]を題材論文として、議論しました。この論文では、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)と蛍光寿命イメージング(FLIm)を組み合わせて、血管内の空間構造と生化学的性質を同時に評価できるマルチモーダルイメージングシステムを提案しました。このイメージングシステムは、血管内プラークの病態生理の理解や心血管診断の向上に役立つと期待されます。

発表概要

浜松医科大学 医学部医学科4年 川畑 千尋さん

動脈硬化の形成メカニズム、イメージングの重要性について説明しました。冠動脈造影や血管内イメージングなど、臨床における動脈硬化のイメージング手法について説明しました。また、血管内超音波法や光コヒーレンストモグラフィ(OCT)による血管内イメージングの問題点として、プラーク(注1)の組成が不明であることを挙げました。そこで、蛍光寿命イメージング(FLIm)が組成取得に有効であることを説明しました。最後に、OCTとFLImを組み合わせた新たなシステム(FLIm-OCT)の有用性を説明しました。

静岡大学 大学院光医工学研究科博士課程1年 奥山 智弘さん

FLIm-OCTの構成や原理について説明しました。マルチスペクトル蛍光寿命イメージングにより、多くの蛍光色素(コラーゲンやエラスチンなど)を可視化できることを説明しました。光学系をもとにFLIm及びOCTの配置や、動作原理を説明しました。血管内をイメージングするために重要なモジュールであるカテーテルについて説明しました。論文で使用したカテーテルの機構や性能評価結果について説明しました。最後に、血管内イメージングのサンプルとして利用したヒト冠状動脈検体の準備方法や評価方法について説明しました。 

浜松医科大学 医学部医学科4年 小島 万由子さん

論文で示された主に2つの結果について説明しました。1つ目は光ファイバーロータリーコリメーター(FORC)の評価結果です。FORCを回転させた時のビームのシフト量を示しました。次に、光の結合効率(注2)の変動の少なさからシステムの安定性を示しました。2つ目は動脈のイメージング結果です。FLIm-OCTで得られた結果とMovat’s pentachrome染色(注3)、 CD68染色(注4)で得られた結果が空間的に対応していることを示しました。

静岡大学 創造科学技術大学院博士課程3年 ARA IFATさん

カテーテルの実装や回転機構の設計、モータードライブユニットにおける半導体検出器、動脈のイメージング結果について議論しました。カテーテルの設計では従来のボールレンズを用いた手法と、今回用いた自由曲面反射光学系による手法を比較しました。自由曲面反射光学系を用いることによりFLIm信号の取得効率を向上できることを示しました。ビームのシフト量や結合効率の評価結果から、提案した回転機構は高い順応性や安定性を持つことを示しました。動脈のイメージング結果では、mFC(macrophage form cells)が蛍光寿命の変化とOCT信号の増加をもたらしていることを示しました。最後に、分光学とOCTの組み合わせによる炎症の検出・定量化の改善、細胞外マトリックスの評価法の改善をこれからの展望として示しました。

論文の概要

血管内イメージングは、動脈硬化性プラークの病態解明や心血管診断において有効な手法です。著者らは OCTとマルチスペクトルFLImを組み合わせたマルチモーダル画像診断システムを設計し、その特性を明らかにしました。このシステムは冠動脈の構造と生化学的性質を同時に評価可能です。

イメージングシステムは図に示す通り、OCTとFLImの光軸が一致しており、それぞれの光がカテーテルへと導入されます。カテーテルの先端から出た光は患部へと照射され、反射した光は再びカテーテルへと戻ります。この時にカテーテルをモータードライブユニット(MDU)内のロータリーコリメーターで回転させることにより、血管の三次元情報が取得できます。

Fig. 1[1] (a) FLIm-OCT システムの概略図。カテーテル、MDU、FLIm、OCTの各モジュールで構成されている。(b) ロータリーコリメーターの3Dモデル。エンコーダは回転軸の角度位置を読み取り、その値は画像再構成と同様に回転軸のクローズドループ制御に使用される。

Fig. 1[1] (a) FLIm-OCT システムの概略図。カテーテル、MDU、FLIm、OCTの各モジュールで構成されている。(b) ロータリーコリメーターの3Dモデル。エンコーダは回転軸の角度位置を読み取り、その値は画像再構成と同様に回転軸のクローズドループ制御に使用される。

著者らが提案したFLIm-OCTカテーテルシステムは次のような特徴的なデバイスを備えています。

(1) エアベアリングを用いた光ファイバーロータリーカプラ

(2) 広帯域な自由曲面反射光学系を用いたカテーテルシステム(カテーテルシステムは筆者らの過去の論文[2]で詳しく説明されています。)

(3) マルチスペクトルFLImのための半導体検出器

システムの評価結果として、紫外および赤外領域における優れた結合効率と安定性(赤外:75.7%±0.4%、 紫外:45.7%±0.35%)、FLImの高い光学的性能(紫外光の半値幅:50 μm)、OCTの優れたビーム品質(赤外光の半値幅:17 μm)を同時に達成しました。また、図2のようにヒト冠動脈標本の高画質FLIm-OCT画像を取得しました。それらはMovat’s pentachrome染色やCD68染色で得られた光学像と比較されました。その結果、(a)において蛍光寿命が短い部位は健常部で、長い部位はPIT(pathological intimal thickening)(注5)やeFA(early fibroatheroma)(注6)に対応し、(b)において寿命が長い部位は集積した泡沫細胞に対応することがわかりました。

Fig. 2[1] ヒト冠動脈サンプルのイメージング結果。輝度はOCT後方散乱強度、色相はFLImで平均化した寿命に対応する。(a)は390nmのスペクトルバンド、(b)は540nmのスペクトルバンドに対応する。OCTによる深さ情報の取得により、血管周囲の脂肪細胞を含む健常部位の血管壁全体を可視化することができる。

Fig. 2[1] ヒト冠動脈サンプルのイメージング結果。輝度はOCT後方散乱強度、色相はFLImで平均化した寿命に対応する。(a)は390nmのスペクトルバンド、(b)は540nmのスペクトルバンドに対応する。OCTによる深さ情報の取得により、血管周囲の脂肪細胞を含む健常部位の血管壁全体を可視化することができる。

提案されたFLIm-OCTシステムは、プラークの構造や生化学的特性を同時に評価できるため、プラークの病態生理の理解や心血管診断の向上が期待されます。

各発表者の発表が終わると、聴講者から発表者に対して以下のような質疑応答が行われました。

Q1、Warren先生から「FLIm-OCTシステムを構築するにあたって困難な点はありますか。」と質問がありました。発表者から「カテーテルシステムを構成する光学系が難しいです。従来のOCTシステムで使用する光は単波長ですが、提案するシステムは波長に幅を有します。よって、波長に対応するファイバーを選ぶことが難しいです。」と返答がありました。

Q2、 Warren先生から「FORC(fiber optic rotary collimator)の評価結果は良い結果、それとも悪い結果でしょうか。」と質問がありました。発表者から「はい、期待した結果です。ビームのシフトが起こった理由も把握しています。」と返答がありました。Warren先生は「シフト量は小さく、結合効率も高いです。カテーテルを回転させても結合効率は高く、安定しており、良い結果だと思います。」と言い添えました。

Q3、 参加者から「FORCの結合効率は安定していますが、不安定な状況ではどうでしょうか。」と質問がありました。Warren先生は「手術室や振動がある環境ではどうなるでしょうか。ここで示されているのは臨床試験で得られたものであり、実際に医師が手術室で使用した結果ではありません。実際は、医師の動作やその他の予期せぬ状況で結合効率が変わる可能性があります。この点については、これから検討されるでしょう。」と言い添えました。

Q4、参加者から、「レーザー光のエネルギーは細胞に対して影響しますか」と質問がありました。発表者は「光の入射時間は1 nsと短いため、影響は小さくなると思います。」と返答しました。

Q5、Warren先生の「光と組織の相互作用として何が生じているか」という質問に対しては、議論の結果「蛍光や散乱の影響が大きいです。それらは、それぞれFLIm、OCTの信号として現れています。」とまとめました。 

Q6、参加者から、「FLIm光の侵入深さはいくらでしょうか。」という質問に対して、Warren先生は「150μmと、OCTで得られる深さと比較して浅いです。」と答えました。 

Q7、参加者から、「実際の血管は血液が流れている。これは結果にどのように影響しますか。」という質問に対して、Warren先生は「この問題はフレームレートで議論されていました。」と返答され、発表者が「サンプリング周波数は6.25 GHzです。」と返答しました。加えて、先生は「フレームレートは何により制限されるのか」と質問しました。それに対し発表者は「回転機構の回転スピードに影響されます。」と返答しました。Warren先生は「繰り返し周波数にも制限されます。高い繰り返し周波数をもつ光源を利用することにより、さらに高いフレームレートを得ることができます。これにより血液の流れや他の複雑な動きを可視化できるでしょう。」とまとめました。

Q8、参加者から、「彼らが示したFLIm画像は、光学像と比較して鮮明ではありません。深さ方向に、より鮮明な画像が得えるためのアイデアはありますか。」と質問がありました。発表者は「より高い強度をもつパルスレーザーを照射すると良いでしょう。」と答えました。また、他の参加者からは「得られた画像はトポグラフィ(注7)であり、トモグラフィ(注8)ではないので、深さ方法に分解能は有してないです。」と返答がありました。

Q9、参加者から、「深さ方向に分解能を持つためにはどのようなアイデアがありますか。」という質問に対して、Warren先生は「非常にチャレンジングです。FLImは紫外光を使うので侵入長が短く、深さ方向の情報を得るのは難しいです。」と答えました。また、参加者は「二光子顕微鏡による報告があるが、カテーテルへの応用は困難です。」とも言い添えられました。Warren先生は「他のアプローチとして近赤外分光や他の分光法を考えたほうがいいかもしれません。」と答えました。 

Q10、Warren先生から、「論文で興味をもって学べた内容は何ですか」と質問がありました。発表者は「この論文の理解は非常に難しかったです。イメージング技術について詳しくなかったですが、医療に対して素晴らしく相性が良いと学ぶことができました。これからさらに勉強したいと思いました。」「光の走査方法に興味をもてました。」「ファイバーについて知識がありませんでした。カップラーを使って光を分岐したり重ねたりできることに驚きました。」と答えました。最後に、Warren先生は「回転機構や、2種類のシステムを結合すること、 自由曲面反射光学系は非常に複雑です。とても勉強になりました。」と言い添えました。

報告者の感想

今回のジャーナルクラブの題材は、前回[3]に続きOCT関連研究でした。今回は、血管内に生じるプラークの断層情報を得るためにOCTが利用されております。OCTは眼科領域では定番手法となっていますが、血管内イメージングへの応用例は未だ少なく、更なる報告が望まれています。著者らは、OCTによる断層情報に加えて、FLImにより断層の組成情報を取得しました。取得した画像の有用性はさる事ながら、システムの実装に感服しました。論文で示されている光学系を見るだけでも、実装の困難さや複雑さが伝わってきます。提案されたFLIm-OCTシステムは血管内イメージングに留まることなく、眼科・耳鼻科領域や半導体産業にも応用可能であり、今後も注視するべき分野の1つだと思いました。

ジャーナルクラブを通して、学生や先生を問わず活発に提案手法について議論がなされました。筆者は工学を専攻しており、論文で登場した症例について詳しくない状況でしたが、学生さんのプレゼンやWarren先生との議論の中で疑問が解消されました。工学と医学の隙間を埋める非常に良い機会になったと思います。

最後に、ジャーナルクラブの指導をしてくださったWarren先生、発表資料を用意してくださった学生さん、静岡大学・浜松医科大学の関係者の方々、ありがとうございました。

引用文献

[1] Li C, Bec J, Zhou X, Marcu L., “Dual-modality fluorescence lifetime imaging-optical coherence tomography intravascular catheter system with freeform catheter optics,”J Biomed Opt., 27(7), 076005 (2022).

[2] J. Bec et al., “Broadband, freeform focusing micro-optics for a side-viewing imaging catheter,” Opt. Lett. 44, 4961-4964 (2019).

[3] “第14回iPERCセミナーを開催しました”, 光創起イノベーション研究拠点, 2022-10-11  https://www.iperc.net/news/20220803journalclubreport/

(注1)プラーク: 血管内の酸化LDLから変化した泡沫細胞が血管内膜に蓄積されたものであり、動脈硬化の要因となる。

(注2)結合効率: 入射する光の強度に対して、ファイバーに取り込まれる光強度の比率である。光はファイバー内で全反射して進むため、ファイバーの材料を使用波長で最適化する必要がある。本論文では、光の波長として紫外から赤外を利用しているため、広帯域のファイバーを選定しなければならない。

(注3) Movat’s pentachrome染色: 血管疾患の研究で用いられる染色である。コラーゲン、エラスチン、筋肉などを染色できる。

(注4) CD68染色: 免疫組織染色に対応する。本論文では、マクロファージを特異的に検出するために利用された。

(注5) PIT(pathological intimal thickening): 病理学的内膜肥厚と訳される。マクロファージや細胞外脂肪からなる病変であり、アテロームに至る前段階である。

(注6) eFA(early fibroatheroma): 初期の繊維性プラーク(粥腫)と訳される。繊維状の構造を持つプラークに対応する。

(注7) トポグラフィ(topography): ‘topo’は「場所」を意味することから、原義は地形図である。電子顕微鏡や光計測の分野では、試料表面の三次元形状に対応する。

(注8) トモグラフィ(tomography): ‘tomo’は「切断、切開」を意味し、断層撮影法と訳される。コンピュータを用いた処理により断層情報を得る手法であるコンピュータ断層撮影(CT)が有名である。

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